
私はときたまマジョに会う。
私はときたま、マジョに会う。
昨日きた彼女もそう、マジョだった。
16時半、港で待ち合わせ。
彼女は満面の笑みで船から降りてきた。
ノースリーブの紺色のワンピース。
白い肌によく似合う。
「本当にきちゃいました」
と、顔をクッシャッとさせ、そう言った。
最初にお会いしたのは、たった3週間前の東京秋葉原。
その3週間後には、ここ沖縄の離島伊是名島で再会。
なぜここに本当に来たのかと、聞いたら、
決めては私だったと。
すごく嬉しかったのと同時に、責任を感じた。
「だから、目的達成です!あー嬉しい!!」と。
こっちがとても嬉しかった。
詳しく聞けば、
毎年沖縄に来ていたけれども
今年はどうもその決めてがなかったそう。
そんなところ、商品を売ってる私に遭遇。
そこで伊是名島を知り行った事のない島に興味をそそられ、
私がどうやら、本当に来たらおもしろい!と言ったようで
それならば面白いほうが。と思ったらしい。
「でね!でね!他の商品も買って、
お会計をしたなら、その会計がなんと777円。
もう行くってことだと確信したの!」と。
偶然というものは時にものすごい力を発揮する。
荷物を宿に降ろし、早速島を案内した。
私にはもうすでに日常と化してしまっている風景。
その風景のすべてに彼女は感動していた。
「もう、沖縄にきてからずっと手を振りっぱなしなの」
「沖縄にくるとね、いろんな植物が私に話しかけてくるの」
「ここの植物は、みんなおりこうさん。とても愛されてる」
と、なんとも不思議な発言をしたが、
彼女の言葉にはうさんくささとかそんなものはみじんも感じなかった。
純粋に彼女には感じるのだと。
「ほらー見て〜あの石〜〜」
と、手を振っていた。
一緒に歩いててとても楽しい。
免許のない二人だったので、徒歩で探索していた。
「そういえば、お仕事は、なにされてるんですか?」と訪ねてみた。
「元バレリーナ。スイスに住んで踊ってたこともある。
日本に帰ってきて教室開いて、15年くらいやってたかな〜。
それもずっと前にたたんで、今は、きままに生活してる。
今住んでる家、東京なんだけど築80年くらいなの〜遊びに来て欲しい〜
あっ、直島にも2年くらい住んでたことあるよ〜」と。
想像以上にステキすぎる人生に驚いた。
そして想像よりにお年を重ねている。
目的のビーチまで40分ほどを予定していたが、
噛み締めるように歩く彼女となら
1時間はかかりそうだ、
日が沈まないかだけが心配だと思っていた。
そしたら、ちょうど車が停車した。
「どこまで行くの〜?乗ってきますか?」
と、そんな偶然に助けられ、
私たちは目的地のビーチに思いのほか早くたどり着いた。
夕暮れの誰もいない静かなビーチ。
私はレモンジュース、彼女はオリオンビール。
魚肉ソーセージと、味好みをおつまみに。
沈むオレンジ色の太陽。
その光は優しく、雲、海、木、そして私たちを包む。
まるで、彼女のようだった。
時折、彼女は、水平線を見つめ、静かに深呼吸をする。
神聖な時間が流れていた。
私の近況も話した。
今の仕事を辞める事、でもまだ島にはいたいこと。
「そうね、時がくるまではね。ここにね。」と彼女。
「時がくれば全てが揃うから、大丈夫」
「そうですよね、時が来ますよね。
でも、まだ不安になる時があるんです。
”その時”を信じきっていいのかって。
やっぱりあるじゃないですが、常識とか。。
そんな考えが邪魔するじゃないですか。。」
彼女は、軽くでも深く、2回、うなずいた。
「でもね、それはね、あってるの。信じきっていいのよ」と。
それ以上の説明はいらなかった。
この時、思った。
彼女はやっぱり、マジョだと。
彼女は私に会いにきたと言ってくれたが、
私は私を守っている誰かが
彼女を私に会わせるために
わざわざ彼女をここまでよんだのだ、
と勘違いしたくなるほどだった。
その後、晩ご飯を一緒にたべ、
彼女は次の日島を離れた。
仕事だったので、港で見送れなかったが、
彼女は私に手紙を残してくれていた。
『スーパースペシャルハッピーに生きようね!』と。